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人類の夢実現に向かう通信産業
<通信業界の歩みと展望>

誰もが待ちこがれていた21世紀がもうすぐやってくる。1855年のパリ万国博覧会以来、万博ではつねにテクノロジーが未来を予測してきた。その夢の未来社会を実現するのはほかならぬ通信産業なのである。近代を推進してきた人類の夢がネットワークの向こうに見えてきた。

INDEX
●情報スーパーハイウェイ構想から3年の通信業界
●企業を変えるCALS
●急速に拡大するインターネット
●インターネットとCALSには大容量ネットワークが不可欠
●B-ISDNを実現するATMとオープンコンピューターネットワーク
●PHSがサービス開始、モービルコンピューティングへ展開
●究極の電話サービスFPLMTSに向けて

日本の通信業界にとって1992年の米国ゴア副大統領が提唱した「情報スーパーハイウェイ」構想は対岸の火事ではなかった。21世紀を目標に、すべての家庭、企業、学校に広帯域デジタル回線を敷設するという構想は、日本の通信業界にも少なからぬ衝撃を与えた。情報スーパーハイウェイはその後「全米情報基盤」と名称を変え、電話、CATV、電力会社など民間主導のもと、政府の援助を受けて進められている。マルチメディア社会へ向けた通信インフラの整備は、キャリアにとって最大の課題になっているのである。

日本でも1985年の電電三法の改正をきっかけにNCC(ニューコモンキャリア)が誕生し、通信サービスの多角化と低料金化が進んだ。1988年にNTTによるデジタル回線サービス――ISDNが開始され、マルチメディア社会への基盤づくりが始まった。当初、ISDNは高度な機能に端末などが対応せずなかなか普及しなかったが、パソコン通信に代表されるデータ通信の増大に伴って普及に弾みがつき、現在は加入回線が100万を超えている。インターネットとCALS(後述)の普及でデジタル回線はますます高速・高容量のものが求められている。

移動体通信が急速に普及してきたことも見逃せない。携帯電話は当初、加入料、利用料金も高価で、ビジネス面での利用が主流と考えられてきたが、NTT DoCoMo、DDIなどが積極的に料金を押し下げることによって利用者のすそ野が広がり、個人利用が伸びてきている。1995年の5月には加入者数が500万人を突破したほどである。また、1995年7月からPHS(パーソナルハンディーフォンシステム)サービスが開始されたことにより、移動体通信はさらに個人に浸透するものと見込まれている。こうした現状をふまえて、21世紀へ向けた通信業界の動向と展望を見てみよう。


●企業を変えるCALS
異なった企業の社員一人ひとりが、必要な情報を同時に共有できたらどうなるか? 答は徹底的なコストダウンと開発期間の短縮である。「光速商取引」と訳されるCALS(Commerce At Light Speed)は、今、日本企業にも着実に導入されつつある。

これまでの企業間ネットワークは、企業グループ単位で個別に構築され、データフォーマットの違いなどによりネットワークを越えたデータ共有が困難だった。しかし、企業LANとインターネットの接続でネットワークのオープン化が進むと同時に、企業の壁を越えた情報共有の必要性も生じてきた。CALSは商品の受発注、マニュアル、在庫、物流、CADデータなど、あらゆる情報を電子化しようという試みで、日本企業に特有な「系列」さえ崩しかねないといわれている。インターネットの普及と軌を一にして、企業の組織・活動を大きく変えてしまうことは間違いない。

また、多国籍企業などでは国境を越えてのネットワーク構築が求められている。KDDでは今後このようなグローバルなニーズに応えるために、外国通信業者とパートナーシップを結び、ワールドソースサービスを提供していく予定だ。ワールドソースサービスでは、フレームリレーを用いて国境を越えた企業LAN構築をサポートするほか、高品質の専用線を利用した国際内線サービスも提供される。

東南アジア諸国の経済活況で、キャリアによるインドネシア、シンガポールへの投資が増加していることも見逃せない。日本の通信技術は、東南アジア諸国に計り知れないインパクトをもたらすだろう。


●急速に拡大するインターネット
マルチメディアの展開は、CATVやパソコン通信が注目されていたが、実際にふたを開けてみると、インターネットという怪物が登場してきた。インターネットには、世界百数十カ国に分散したサーバー約500万台が接続され、その利用者は3000万人とも5000万人ともいわれる。日本でもここ1年のあいだに急速に加入者が増えてきている。

インターネットは国際的なコンピューター通信が可能な地球規模のネットワークである。世界各国のLANをTCP/IPプロトコルによって相互接続し、「ネットワークの中のネットワーク」と呼ばれている。もともとインターネットは軍事用にアメリカで構築されたネットワークで、研究者、技術者を中心に利用されていた。それが、WWW(World Wide Web)というマルチメディアデータを扱える情報提供システムと、商用プロバイダーと呼ばれるインターネットへの接続サービスを提供する通信業者の登場で、一挙に一般利用者への拡大が始まった。すでにアメリカでは商用サーバーのドメイン数が7万5000を超えている。日本ではすべてのドメイン数を合わせてもまだ4000足らずなので、これから爆発的に増加する可能性がある。

インターネットには企業からも熱い視線が注がれている。企業の場合、自社のLANをインターネットに接続して、電子メールやWWWをビジネスに活用する場合と、商用サーバーを設置してインターネット上で通信販売などのサービスを提供する場合が考えられている。いずれにせよ、今後情報インフラとしてインターネットは重要な役割を担うだろう。


●インターネットとCALSには大容量ネットワークが不可欠
現在はアナログの公衆回線で利用しているインターネット個人利用者も、近い将来ISDNなどのデジタル回線に乗り換えるのは必至だ。企業LANがCALSやグループウェアに対応することも加えて、当然、回線全体のトラフィックを増やすことになる。その結果、通信ネットワークを支えるバックボーンの高速・大容量化がこれからの最大の課題になっている。

NTTでは現在、INSネット64とINSネット1500のサービスを行っている。現在主流のINSネット64は64kbpsの通信速度を持つが、この速度では現在の静止画像主体のインターネットでさえ、データ転送に時間がかかりいらいらすることがある。INSネット1500では、初めてメガビットレベルのデータ転送(1.5Mbps)が可能になり、ハイビジョン映像も送ることができるようになった。

NTTは、さらなる大容量ネットワークを目指して、1994年9月からB-ISDNの実用化に向けた実験を始めている。全国10カ所を通信速度10Gbpsのバックボーンで結び、各地に設けられたアクセスポイントは企業や大学のLANと156Mbpsの通信速度で接続されている。このB-ISDNにはATM技術と光ファイバー技術が使われている。B-ISDNはテラビットレベルの大容量にも対応しており、将来は共用バックボーンネットワークとして、インターネットをはじめとするさまざまなネットワークに利用されるようになるだろう。


●B-ISDNを実現するATMとオープンコンピューターネットワーク
B-ISDNを支える基礎技術がATMである。ATMではネットワークにかかる負荷に応じた効率よいデータ転送が行えるので、156MbpsからGbpsクラスまでの高速通信が可能になる。その仕組みはデータを56byteごとの小さなセルに分割して送り出すところにある。送り出されたセルにはヘッダと呼ばれる情報が付いており、セルはこのヘッダ情報を元に、自動的に送り先に行き着く。回線が込み合ってくれば、あたかも水道の蛇口をひねるようにセルの流れを調節でき、回線を効率よく利用するのにも有効だ。

また、現在の通信方式は、相手先までの回線経路を交換機が接続したうえでデータを送り出す、コネクション型が主流だが、これからはあらかじめ回線経路を特定せずにデータを送り出すコネクションレス型通信が登場してくる。実はインターネットで採用しているTCP/IPプロトコルがそれで、網の目状に張り巡らされたネット上を、自由自在にデータがリレーされている。交換機を使っていたキャリアにとって、コネクションレス型通信は画期的方式なのだ。NTTではオープンコンピューターネットワークと名づけ、将来のマルチメディア時代に対応できる通信網として提唱している。

コネクションレス型のネットワークでは通信コストを低く抑えられるというメリットがある。これにより定額料金制が普及してくれば、インターネット利用者が増えるだけでなく、さまざまなデータ通信を利用したサービスが低料金で提供されてくるに違いない。


●PHSがサービス開始、モービルコンピューティングへ展開
PHSが1995年7月から運用開始された。現在NTTパーソナル、DDIポケット電話、アステルの3グループが首都圏をはじめとする大都市を中心にサービスを提供している。

PHSの特徴は、加入料金、基本料金、通話料金、本体価格が安いことである。PHSは、出力10mWと電波が微弱なため、基地局からの通達距離が200〜500mと短く、サービスエリアを広げるには多数の基地局が必要となる。しかも、携帯電話ではスピーディーに行われる基地局から基地局へのリレーが限られた条件でしかできないので、走行中の自動車からは通話できない。しかしその反面、携帯電話よりも低コストで基地局を設置でき、トータルとしては安くすむというメリットがある。PHSはビジネス利用をターゲットにおいた携帯電話と異なり、あくまで個人の利用をターゲットに開発されているのだ。

PHSでは近い将来32kbpsのデータ通信が可能になる予定だ。これはINSネット64の半分の通信速度に相当する数字で、これによって、本格的なモービルコンピューティングが可能になると考えられている。 また、現在の携帯電話のサービスエリアをさらに拡大した、衛星携帯電話が具体化してきた。そのひとつは、アメリカのモトローラ社が中心になって進めている「イリジウム計画」だ。この計画は比較的低高度の軌道上に66個の通信衛星を打ち上げ、地球上どこからでも電話が利用できるシステムを目指している(当初の計画では77個で、イリジウムの原子番号と同じだったため、この名前がついた)。「イリジウム計画」には日本からもDDI、京セラが参加している。同様の衛星携帯電話には、国際海事衛星機構が中心になって進めている「プロジェクト21」がある。こちらにはKDD、日本テレコム、NECが出資している。

イリジウム計画の概念イラスト
地球上のどこにいても通信できる、究極の移動体通信システム。音声、ファクシミリデータはもちろん、コンピューターデータのやりとりも可能。



●究極の電話サービスFPLMTSに向けて
このような移動体通信が普及するにつれて、1人で複数の電話番号をもつ利用者が増えている。これに対し、携帯電話、PHS、FAXなどの電話番号をひとつに統合して利用できる「ワンナンバーサービス」が1996年春から登場する。これに参加するキャリアは、国境を越えて1人にひとつのナンバーを割り振ることができる。たとえば、ワンナンバーサービス利用者が日本からアメリカに行ったとしても、最寄りのサービスセンターに登録すれば、どこにいても国内と同じ電話番号で電話が受けられることになる。

こうしたサービスの究極の姿を描くのが、FPLMTS(将来の公衆陸上移動システム)である。世界中どこにいても利用でき、世界標準のインターフェースを備える。通常の音声通信に加えて、データ通信にも使え、画像通信も行える。都市部ではPHSとして機能し、郊外や海上、山間部では衛星携帯電話になる。もちろん、海外に持って行っても、同一のサービスが受けられる。FPLMTSは21世紀早々の実現が考えられている。FPLMTSこそが電話サービスの究極の姿といえるだろう。

ここ数年、電電三法の改正により、通信業界は活況を呈している。だが、この活況が規制緩和によるものだけでないことは明らかだ。マルチメディア、FPLMTSという人類の夢を実現するために、多くの優秀な人材が参加しているからである。